針穴の作り方           Home Pageへ

針穴の作り方はこうしなければ駄目というものはあるわけではないのですが、私は私なりの拘りで作っています。
その私の拘りとは、厚めの腐食しにくい金属板を使うという点に集約されます。 今まで作ったピンホールは全て0.3mmの銅板を使っています。 何故そうしているかと言うと、

0.3mm厚の銅板は入手しやすいこと、腐食によりピンホールが変形する可能性が少ない、0.3mmの厚みはよほど手荒な扱いをしない限り曲がるようなことはなく、ピンホール板を固定したり剥がしたりしても壊れるようなことはない、などの理由ですが、最後の理由はかなり重要だと考えています。
というのは1枚のピンホール板を作るにもかなり手間を掛けているためちょっとしたことで使い物にならなくなるのは大変悔しいからです。 特にピンホールの直径が微妙に異なる物の付け替えや新たな方法で作ったピンホールを試してみたいことも結構あるので、簡単に交換できることは結構私にとって重要なのです。

但しピンホールの周りの肉厚を出来るだけ薄くしたいため、今後は銅よりもより硬いステンレス板やチタンの板などを使って試作してみようと考えていますので、硬さの増大につれて厚みも薄くするつもりで0.1mm厚辺りがあらたな材料厚になる可能性がありますが、取り敢えずは0.3mmの銅板で私が作っている方法を述べることにします。

0.3mm厚銅板にピンホールを作る方法その1

 穴あけに使う針について

 金属板になにでピンホールをあけるかというと、その名のとおり「ピン(針)」
 です。 特に特殊な物ではなく、裁縫に使う針を使います。 

 金属に0.2-0.3mmの小さな穴をあける訳ですから細くて腰の強い丈夫な物
 でなくてはなりません。  私が使っているのは(クロバー株式会社製)の、
 超薄地用絹針という針で太さが0.53mmあります。

 この針を無作為に5本取り出して2本のノギスで針の太さが先端から0.2mm
 となる所、0.3mmとなる所そして0.4mmとなる所を2本のノギスで測定しま
 した。  測り方は省略しますが、測定誤差を少なくするため各々20回ずつ
 測りそれらの平均値を算出しました。  その結果として言えることは、

  ・針の先端から1mm刺した場合0.2mm前後の穴があく
  ・2mm刺すと0.3mm前後の穴があく
  ・3.5mm刺すと0.4mmの穴があく


 といったところですが、見方を変えて、1mm刺した時に穴径が0.3mmを超え
 ることはないとも言えますし、0.2-0.3mmの間の穴とおおらかに考えてしま
 うのであれば、1.5mm刺せばよいという言い方も出来ます。


ピンホールの製作手順

写真での解説の前に用意する材料と工具・道具について以下にリストアップします。

 材料: 

 0.3mm厚の銅板を使います。 鉄や真鍮より柔らかく錆の性質が穏やかですので、
 入手しやすい材料の中ではベストです。
 道具:
     ヤスリ  金工用の中目を使いました。 特別の物ではありません。
     サンドペーパー  #600のかなり目の細かいペーパーを使いました。
     絹針  前述した超薄地用絹針(クロバー株式会社製)です。
     高倍率ルーペ  なるべく倍率の取れるものがあると助かります。 私は25倍を使いました。
     両眼用ルーペ  年のせいでこれがないと細かな作業が難しかったので。
     ノギス  最近は安くなり今回使った物は\1500で買ったものですが、精度は充分です。
     割り箸  針のホルダーとして使います。
     ペンチ  針をホルダーに刺すときに使います。
     棒切れ  銅板を固定するのに使います。 20-25mmの角棒です。
     セロファンテープ  銅板一時固定用です。
     ホッチキス  針をホルダーに刺す穴をこれであけます。
     ペーパーカッター  ちょっと無茶ですが銅板切断に使いました。 キッチンバサミでも良いでしょう。
     デジカメ  300万画素以上で数センチまで接写できる物があると、針穴の直径を確認できます。
 
  
銅板は20-25mm角位に極力曲がらないよう切断します。 私はペーパーカッターで切断しましたが、ハサミで切る場合には曲がりやすくなります。 

細かな工作の3種の神器。 左が両眼用ルーペ、手前はノギス、奥が高倍率ルーペです。

ドリルのチャック回しハンドルですが、この横棒の頭が丸いのを利用して、銅板に凹みをつけます。

左は元々の横棒端のクローズアップ。 かなり粗いのでヤスリで削りペーパーで研磨して右のようにしました。

板にチャックハンドル横棒が通る穴をあけ、その板と別な板の間に銅板を挟み、玄翁で横棒を叩き凹みをつけます。

凹ましが終わった銅板。 左の工程で板と板の間に挟むのは銅板全体が歪まないようにという配慮です。

ノギスで厚みの増加を測り出っ張り量が0.3-0.4mmにします。 この例では0.7mmですので、0.4mm出っ張っていることになります。

出っ張った部分を中目のヤスリで削りますが、厚みの変化をノギスで確認しながら0.25mm削ります。
(計算上凹みの中央部の厚みが0.05mmとなります。)

銅板の凸面を上にして木の棒にセロファンテープで貼り付けます。


#600のサンドペーパーで研磨し面を平らにします。 これで凹み中央の厚みは0.03-0.05mmとなります。
(ノギスの測定限界は0.05mmですが、で0.05mm以下になっているかどうかは確認できます。)

#600ペーパーによる研磨が完了したところです。



割り箸にホッチキスで針を打ち込みこれを抜いた穴に針をペンチでくわえ刺し込みます。
(私は一寸法師の剣だと言っています?!)

銅板凸面を平らな板の上に置き針で穴をあけますが、刺さったなと感じたらそこで止め反対側に0.7mm針先が出ていることをノギスで確認します。
(凹み面からだと0.75mm近く刺さったことになります。)

凸面の穴の周りにはこのようにバリが出ますので、#600ペーパーで削り落とします。
(この時板の厚みが若干薄くなり穴径もほんの少し大きくなります。)

 #600のペーパーでバリを落としたら針を凹面側から穴に挿して回転させ真円になるよう軽く成形します。 
 次に高倍率ルーペで凸面側の穴の周りを見てバリがないかどうか確認します。 バリがあったらまた#600で研磨して落
 とし針で真円成形を繰り返します。
 (注意:針で真円成形する際穴径は大きくなりますから、押す力を掛けすぎないよう。 それでも真円成形が終わる頃に
 は針が0.9-1.0mm刺さる状態となり、穴径は0.2mm前後の所定の径になります。)


 また銅板を明るい方にかざし斜め方向からピンホールを見て穴を通る光が見えなくなる角度をチェックします。
 その角度が12度以下になれば穴の周りの板厚は0.043mm以下となりまずまずの薄さとなります。 これよりも大きい
 角度で光が見えなくなったら肉厚が厚すぎますので、銅板凸面を#600で更に研磨する必要があります。
 その場合には真円成形もやり直さなければなりません。

 最後に高倍率ル-ぺでもう一度真円となっていることを確認したら終了です。 





ピンホール板をノギスに貼り明るい方向に向けながら、ノギスの目盛りを含めデジカメで接写しました。 PC画面上の拡大測定で直径約0.21mm、ほぼ真円でした。  
(1704x2272の拡大画面をこちらからご覧いただけます。)

完成した7枚のピンホール板。 とはいってもこの大きさではピンホールの様子は判るわけありませんが、左写真の測定法によるとピンホール直径は0.19mmから0.22mmの間に入っています。



 左上の写真ファイルをパソコン画面で拡大してみれば真円具合や直径が測定できます。
 私は良い物を選別するため一度に7枚作りましたが、こうして測ったピンホール直径は、0.19-0.22mmの間でした。
 真円度は何れも良さそうで、ピンホール周りの板厚は0.035-0.045mmの間で7枚何れも使い物になりそうです。



0.3mm厚銅板にピンホールを作る方法その2

基本的な作業の手順はその1と全く変わりありませんが、高価な微量な寸法の測定道具無しでより精度を高めるためのジグを試作したのと、穴をあける針に加工を加え0.15mm程度までの穴を安定してあけられるようにしたものです。

より小さな直径のピンホールを作る

これまでに使ってきたピンホールは直径0.2mmのもので、絹針を1mm挿し込めば穴の直径が約0.2mmになることを利用してきました。 この方法は0.2mm以上のピンホールを作る時には良かったのですが、0.158mm0.187mmのピンホールを安定してあけるのは不可能です。 その理由は針を挿し込む距離が1mm以下であるとテーパーが急になり、挿し込む量のずれが大きく直径に影響するからです。

そこで目標としては0.1mm以上の穴が安定的にあけられる針を作ることにしました。  方法としては針を削ってやればよいのですが、針の新円度が狂ってしまってはまずいので、単純にヤスリでゴシゴシというわけには行きません。 そこでジャンクボックスを漁っているうちに5年以上も使っていなかった乾電池で動作するプリント基板の穴あけ0.5-1.0mm専用の電動ドリルを発見しました。 

 これはいいものを見つけたと早速針をチャックに取り付けて#600の空研ぎ用サンドペーパーに回転している針を当てて
 研磨しました。
 針の弾力性のため研磨の進み具合はかなりゆっくりで1時間ほど掛かりましたが、高倍率ルーペで見た限りではなかな
 かよさそうな感じとなりましたのではずして測定したところ、針先から0.5mmのところで0.118mm1mmのところで
 0.152mm2mmのところで0.227mm3.5mmのところで0.333mmと緩いカーブを描いていた面はかなり円錐面に近
 づいたことと一段と小さな穴をあけられることが確認できました。

 0.158mmのピンホールであれば1mm強刺せばよく、0.187mmであれば1.5mm近く挿せばよいわけで、これならうまく
 行きそうです。

こうして作った針は表面のメッキは完全にはがれてしまい高湿度の環境ではあっという間に錆びてしまいますので、CRC5-56を含ませた布に包んで穴あけまで保管することにしました。

ジャンク箱で見つけた単二乾電池2本で動作する小さな穴あけ用の電動ドリル。 チャックに針が固定してあります。

チャックに針が固定された部分のアップで、直径0.5mmの針を何とかくわえることができました。

#600空研ぎペーパーに回転している針を当てて研磨中。 針がしなっているのが判ります。 研磨にはかなりの時間が掛かります。

研磨終了した針と研磨していない針との比較写真。 カーブを描いていたテーパーがかなり緩い直線になっていることが判ります。 研磨後の針が黒ずんで見えるのはメッキ部分を全て剥がしてしまった為です。


薄板の厚みを測る道具

銅板の中心付近の薄さ加減をカットアンドトライでやっておりましたが、これを「もっと賢い正確な方法でやりたい。」 つまりカットアンドトライではなく凹ました部分の厚みを知った上で穴をあけたいと考えました。

ピンホール径が小さくなればなるほど銅板を薄くしないとケラレの影響が大きくなります。 また薄い方が細くなって折れやすくなった針でも楽に穴があけられるのでこれは重要課題であり何とか克服する必要があります。

しかしこの厚みはノギスは無論のことマイクロメーターを使っても測れません。 マイクロメーターの挟む部分に接触面積を小さくするアダプターを取り付ければ何とか測れますが、0.01mmまで測定できる精度を狂わせないように改造するのはリスクがあります。

 暫し方法論を考えていたのですが、ナイフエッジを使って手元の材料だけでかなり正確に測定できそうなものを考えまし
 た。  その原理は左の図をクリックしてください。
 組み立てた測定器具は後ほどご覧に入れますが、本体は合板を細く切った棒を張り合わせたものでL型をしています
 が、L型の長い方にはプラスチックの板を接着して延長してあります。

 被測定材料に接触する部分はの木ねじの頭を少々丸くしたものを埋め込み、回転軸は先ほど述べたナイフエッジで
 使い古しの替刃式カンナの刃を使いました。 背面に立てた板の上端には短い物差しをクランプで固定してあります。

 被測定物を所定の場所に置くと測定器具は被測定物の厚みにより右に傾きます。 このときL型アームの短い方と台座
 がなす角度と長いアームがもともとあった位置となす角度は同じΘとなります。 Θが十分に小さい値の場合(被測定物
 の厚みが薄い場合)
T1:T2=L2:L1が成り立ちますから、T1=T2XL2÷L1 が導き出されます。

試作したものはL125mmL2500mmとしましたので、T2の読みが1mmであれば、T10.05mmということになります。
これだけの代物ですが、厚み0.025mmまでは楽に目視で読み取れます。 実際には測定誤差を少なくするため、測定前の読み、測定時の読みを5回繰り返しデジカメで接写して、拡大したプリントをノギスで測定して平均値を出すという方法を取ることにより、0.01mmまでは読み取れるだろうと考えています。 

この測定器具の精度に影響するのは、L1L2の長さの安定性、L型アームのたわみ防止、そして回転軸となるA点の精度と安定度で決まりますが、L型アームの撓み防止は補強の棒を重ねることで、そして回転軸はナイフエッジを5mm厚のアルミ板にV字型の溝を彫ってそこに落とし込んでいます。 安直に作った割には正確で安定した測定が可能だと思います。

結論としてピンホールの直径を0.15mmとした場合でも銅板の厚みを0.01mm程度まで薄く出来ますので、ケラレによる光量損失低下はかなり抑えられるはずですし、薄く出来れば針による穴あけも容易になります。

ありあわせの材料で材料で作った微量厚み測定ジグ。 測定限度は0.01mmまで?

厚み測定点はの木ネジ先端で、回転軸受けは精度・感度が高くて安定度もあるナイフエッジ。

上端には物差しが取り付けてあり、針の振れを直読できます。

試しにピンホールを作る公称0.3mm厚の銅板を測定してみました。

その読みはこのとおりで、6.5mmを指していますがその1/200.325mmが実際の厚みとなります。



針を折らないよう穴をあける方法

極端に細くしてしまった針は折れやすくなっていますので、これにも一工夫が必要です。 その方法は金属板面に直角に針を当てることと、単純に直進してあけるのではなく、捻りながらあけることだと思われます。  この捻りながらあけるのは、真円度を高める点でも効果があるはずです。 またついでに挿した長さが測定することなく判ればベストです。

以上を満足するものとして下の写真のようなジグを作りました。 方法としてはピンバイスに針を取り付けてピンバイスのお尻をテコの原理により押して、挿し込み量(ピンバイスの移動量)10倍に拡大して読み取ろうというアイデアです。

テコの原理を使うので、針が穴をあける力も大幅に小さな力であけられますので、挿し込み量のコントロールもしやすいのではないかと思います。 またピンバイスを指先で回転させられますから、捻りながら穴をあけることが可能です。

手回しのピンバイスを使った針を折らずに正確な穴をあけるジグの全景です。 これで針の挿し込み量を0.05mmの精度位まではコントロールできると思います。

回転軸となる蝶番の中心からピンバイスに当るネジの先端までは15mmになっています。 ピンバイスに針を固定して針先が銅板に触れたら、

定規のメモリを0に合わせてからアームを押してやります。 蝶番中心からアームの赤の矢印先まで150mmありますので、ピンバイスの移動量(針の挿し込み量)10倍に拡大されて読み取れます。


二つのジグの準備が整いましたので、20mm用と28mm用それに近い将来作る予定の4 X 5判用を意識しながら、4枚のピンホール板を作りました。 そしてそれらをデジカメで0.5mm幅のスケールと共に接写し部分拡大した写真が以下のとおりで、それらから読み取ってスケールとの比率から計算したピンホール径を書き込んでおきました。

精密に測定できるジグは出来たものの極度に薄くなったピンホール周りは柔らかすぎて成形が大変厄介で、とても0.001mmレベルを調整できません。 神経を集中して0.01mmの調整が限度だと思われます。

以下の写真には0.001mmオーダーまで記載してありますが、計算上そうなっただけ!とご理解下さい。 心配した針が折れるような可能性は全くなくむしろ薄くなった銅板は柔らかすぎて調整しにくいので、より硬い真鍮板か燐青銅板を使うほうが成形は容易に出来ると思います。

小手調べの1枚目。 0.21mm(35mm焦点距離用)を目標にしたのですが、ご覧のとおり10%ほど大きくなってしまいました。 これは更に大きくして4 X 5判用に転用します。

1枚目で大きくしすぎたのでかなり絞って0.15mmを目標にしたのですが、これもオーバーし、20mm焦点距離に最適なものに仕上がりました。

2枚目の経験を生かし2枚目より0.03mm大きくとチャレンジしたもので、偶然でしょうがほぼそのとおりになりました。 これは28mm焦点用に使えます。

4 X 5判の超広角の45mm焦点に最適なものが出来ました。 だいぶ慣れてきましたが、銅板は柔らかすぎてちょっとしたことで穴径が大きくなってしまのでかなり神経をすり減らします。

結論

より小さなピンホールをあけやすくそして銅板の穴あけ位置をより正確に薄くすることはできたものの、銅板も薄くなると柔らか過ぎて成形に結構手間が掛かり、ちょっと油断すると作り直しとなる可能性が高くなることが判りました。

更なる改善のためには銅板よりも硬い真鍮板、燐青銅板、ステンレス板、そしてチタンで出来た板などを使ってやる必要がありそうです。 その際より硬くなることから板の厚みを減らして0.1mm前後或いはそれ以下のものの方が良いと思われます。

ということで次の目標へのチャレンジはいつになるか不明ですが、そのうちお伝えしようと思います。



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