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 今から45年程前になるだろうか、私が最初にピンホール板を試作したのはトタン板を使っていた。(鉄板に亜鉛メッキをしたもので、これに対しブリキ板は鉄板に錫メッキしてある。)  その当時は薄い銅板や真鍮板等大変入手困難だったのがその理由だが、鉄板に直径0.2-0.3mmの穴をあけるのに大変苦労した。

そして現在の主力は0.3mm厚の銅板をピンホールの周りだけへこまして穴をあける手法をとっており、銅が耐食性が良いこととアルミに比べると少し硬いために加工しやすくしかも安定したピンホールを作れている。

 しかしこの銅板にも問題がある。 ピンホールに斜めに入っ
 た光はピンホールが真円であっても、

 ・斜め方向には光束が楕円状に細くなる、
 ・ピンホール板の厚みに起因したケラレ
による光の損失、
 ・周辺はフィルムまでの距離が遠くなるための光量低下、

 の3つが組み合わさって、周辺では光量低下(露出不足)
 起こしてしまう。 これら3種類のうち3番目だけはピンホー
 ル板を薄くする事により軽減されるが、他は原理的に改善
 策がない。

 そこで理論的な値がどうなるかを直径0.2mmのピンホール
 で計算してみた。
 最初は入射角が大きくすると(傾いて行くと)、ケラレにより
 しまいには光が完全にブロックされて通れなくなってしまう
 限界で左の図のようになった。

 この範囲を写真用語ではイメージサークルと呼ばれている
 が左の図のように、ピンホール板の板厚が0.2mmであった
 とすると35mm判では約21mm(かなりの広角)が撮影の
 限界となる。

 ピンホール板の板厚を半分の0.1mmにした場合には
 11mmの焦点距離まで撮影可能であり、更に半分の
 0.05mmとした場合には5.4mmの焦点距離までが撮影範
 囲となる。

 私が最初に作った6 x 9判カメラの場合35mm判では
 15mmの焦点距離で、周辺の光量低下は大きいものの撮
 影は出来ているので、ピンホール周りの板厚を同様に計算
 したところ0.139mmであった。
 つまりピンホール周辺の板厚は0.139mm以下になってい
 ることになる。

 但し以上は撮影可能な範囲の計算でしかなく、実際には
 周辺で大幅に光量低下(露出不足)を起こしているのでそ
 れを計算してみた結果が次の図である。


 左の図は光の入射角が26.7°(撮影画角は2倍の53.4°
 の標準レンズ)
で、ピンホール板の板厚が変化した時に画
 面の隅でどの程度の光量低下を起こすのかを計算したもの
 である。

 先ずピンホール板の板厚が0.2mmの場合だが周辺では
 光量がなんと35.4%にまで低下してしまう。 これはカメラ
 の絞りを約1.5絞った状態に相当し、誰が見ても光量低下
 がはっきりと確認できてしまう。

 次にピンホール板の厚みを0.1mmに減らしたものだが、こ
 の場合光量は53.4%と約半分に低下する。
 カメラの絞りでいうとほぼ一絞りに相当するが、この程度で
 あるとあまり気が付かない方もあるかもしれない。

 参考までに35mm48mm
 ピンホールレンズで撮った右の写
 真は、ピンホール周辺の板厚が
 0.1mmであることを確認できている
 が、ごく僅かな周辺光量低下であ
 り目立ちにくい。

 更にピンホール板を0.05mm迄薄くした場合には周辺光量
 は62.3%と問題にならない範囲に入ってくる。

 以上はあくまで焦点距離が標準レ
 ンズ付近での話であり、より短い
 焦点距離の時にはかなり目立つ。
 右の写真はその例で、35mm判で
 焦点距離は28mm、板厚0.1mm
 と上の場合と同じである。

 35mm判換算で15mmとなる 6 x 9判のカメラの場合板厚
 が0.1mmでは光量低下の影響がかなり出ているわけで、
 計算してみた結果何と周辺光量は5.2%(約20倍の露出不
 足)
との計算結果が出た。
 実際に私のカメラのピンホール板の
 厚みがどうなっているかを確認でき
 ないが、10倍前後の露出不足にな
 っていることは間違いない。
 (右は周辺光量低下がよく判る例)

これらの光量低下はピンホールカメラの宿命的なものとし、光量低下を映像表現のひとつとして捉える向きもあるが、私は広角側のピンホールカメラでの表現に興味を持っているので、極力この光量低下を抑えたいと考えてきた。 そこで何とかより薄い厚みがはっきりと判っている金属板を入手したいと友人に協力を仰いでいたのだが、最近になって数種類の材料が手に入った。  そこで試作の目標設定をしてみた。

 友人が探してくれた薄い金属板は材質的には真鍮とステ
 ンレスで、前者は0.1mm0.01mmの物、後者は
 0.1mm0.05mm0.02mmとなっている。

 それぞれの加工のし易さをチェックしてみると、真鍮の
 0.1mmは適度な硬さであるが前述のように撮影画角が標
 準レンズより大きい場合には適当とは言えない。
 0.01mmの物はもはや箔の領域で厚みとしては理想的な
 のだが、柔らかすぎて破れたり伸びたりし易いため安定し
 た加工は困難なように思う。

 一方ステンレスの方は0.1mmの場合真鍮板と同じで余り
 意味がない。 おまけに真鍮板より遥かに硬いので穴あけ
 に苦労すると思う。 もっとも私が銅板で作るやり方と同じ
 ように作るのであれば、問題ない。 これは0.05mmも同様
 で、ピンホールの最適径が大きくなった場合には利用価値
 があるだろう。

 最後の0.02mmの厚さの物は正直言って感激した。
 ぺらぺらの状態ではあるがステンレス独特の腰の強さのた
 めに乱暴な扱いをしない限り曲げてしまう事はなさそうだ。
 また試しに特に加工していない普通の絹針で穴をあける実
 験をしてみたが、適度な抵抗感で穴をあけられた。
 更に薄い0.01mmなども試してみる価値はあるが、柔らか
 すぎて加工が厄介になる可能性があるかもしれない。

言うまでもなくステンレスは錆には極めて強いこともあり、この0.02mmの物を使って試作してみる事にした。

上の図が試作してみようと考えているピンホール板の光量低下について計算した結果である。 35mm判で15mmの超広角での周辺光量は15.8%1/6強の低下を起こすが、少なくとも現状よりは遥かに改善されるはずである。 更に0.01mmを使ったときの改善は1.4%に留まった。

尚より焦点距離の長い21mm25mm28mm35mmについて計算してみた所、それぞれ30.3%39.5%45.7%57.7%で、28mmより長い焦点距離となると殆ど目立たなくなる可能性が高い。

次回には新たなピンホールレンズの試作の様子をご紹介したいと考えている。       ----- つづく -----

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