35mmピンホールカメラ 2 自作カメラINDEXに戻る Home Pageへ

製作期間: 2004/07/30 - 2006/04/01

構想

35mm判のピンホールカメラ1作目はNikonの1眼レフを使いましたが、クイックリターンミラーが邪魔する関係で焦点距離は39mm以下に出来ませんでした。 39mmというとやや広角気味の標準レンズのようなものですから余り面白みはなかったのですが、やっとM型ライカ用のボディーキャップが入手できましたので、これとフォクトレンダーベッサTとの組み合わせに最適化したピンホールレンズを作ることにしました。

 購入したものはハンザ製のアルミ削りだしの大変立派なものでもったいないくらいの物ですが、
 その割に価格は\1,000.-強と安いものでした。 (現在は業務終了のため入手不可!)
 但し私が注文したブラックタイプよりもシルバータイプのほうがベッサT(オリーブ色)には合いそうです。
 その寸法は左の図のようなもので、中心部の肉厚が4mmもありますのでこれを加工するのは結構大変そうです。

 実は今回は20-40mmのズームピンホールレンズを狙っていたのですが、2つの理由で実現が難しいことが判りました。
 詳しくは次の写真をご覧ください。

Bessa Tにボディーキャップを被せたところ。 シルバーのほうが合っていたかも?

ボディー内部の中心から直径30mm位迄はシャッター膜まで邪魔するものは無いのだが?

上あご部分には距離計用のカム機構、露出計センサーが邪魔している。

下あご部分もこんな具合になっていて当たる部分が多い。

 第一にはベッサTのボディ内の懐が露出計センサーや距離計連動機構のために意外に狭く、画面直前まで使えそうな
 領域はマウントを中心とした直径30mmくらいしかありません。 その条件で20-40mmの可変焦点を得られそうな構造
 を考えたのですが、左図のような20-35mmのものしか取り敢えずは考えつきませんでした。

 この図で黒い部分はボディーキャップ、灰色と空色の部分が接触するところはピッチの細かいネジを切って回転ヘリコイド
 にしてやる必要があります。 これは私の持っている道具や手加工では製作不可能です。
 ネジを切らずに摺動式にすれば作れるかもしれませんが、その場合光線漏れが心配ですしぐらついて不安定になること
 も考えられます。

第二の理由はかなり決定的で焦点距離に応じた適切なピンホール径を考えると、20mm40mmの時では変えてやる必要だあることです。

先人の研究によるとピンホールの焦点距離の変化に対して最も先鋭な像を得るためにはピンホールの直径を以下のようにする必要がありそうです。

焦点距離 最適直径 製作目標    焦点距離 最適直径 製作目標    焦点距離 最適直径 製作目標

15mm 0.137mm 0.14mm    35mm 0.209mm 0.21mm    100mm 0.353mm 0.35mm
20mm 0.158mm 0.16mm    40mm 0.223mm 0.22mm    140mm 0.418mm 0.42mm
24mm 0.173mm 0.17mm    50mm 0.250mm 0.25mm    200mm 0.499mm 0.50mm
28mm 0.187mm 0.19mm    70mm 0.295mm 0.30mm    300mm 0.611mm 0.61mm


これら最適直径の製作許容誤差は画面サイズが小さくなるほど厳しくなり35mm判の場合には0.001mm位だという報告もあります。 そう考えると20mmの時と40mmの時に同じ直径のピンホールは使いにくくなってきます。 因みにこれまで使ってきたピンホールは直径0.2-0.21mmでしたが、焦点距離35mmの最適値でありこれに就いては問題はありません。(ピンクで示した部分)

 ターレット式にピンホールを変えてやろうか!とも考えましたが、何しろ組み込めるスペースが小さいですから結局ズーム
 ピンホールはあきらめ、前回と同様固定焦点タイプを2種類作ることに変更しました。 
 その結果選択した焦点距離は20mmそして28mmです。

 極力短焦点にしたかったのですが20mm以下にするとボディー内の懐の問題よりもマウントそのものでケラレてしまうこと
 が作図的に判りましたので、20mmが限界と考えています。 また28mmは最少限のボディーキャップ改造で実現できる
 ため最も簡単な方法として選んでいます。 これらの焦点距離は通常のレンズの焦点距離にもありますので、描写比較
 をする上で、また外付けファインダーを流用できる点でも有利です。

 これら20mm28mm用の最適ピンホール径は図より0.158mm0.187mmで既に作ったものより小さいので新たにピ
 ンホールは作り直すことにします。 

 このような経過で構想がまとまりましたので設計図を描いてみました。
 左の図がそれらですが、28mmの場合ボディーキャップに直径12mmの穴をあけて裏に0.5mmのスペーサーを挟んで
 ピンホール板を貼り付けるだけです。

 20mmの場合はケラレ防止のためもっと大きな穴をボディーキャップにあけ、3mm厚のスペーサー3枚を挟んでピンホー
 ル板を貼り付けます。  このスペーサーとボディーキャップで作る段々はフードの役目を果たします。

以上がベッサT用に考えたピンホールレンズの概要ですが、短焦点の20mmタイプでも無理した設計ではありませんからM型ライカマウントのカメラであれば多分どのカメラでも問題なく取り付けられる可能性は高いかもしれません。



ピンホールレンズの製作

 ボディーキャップに穴をあけることから始めましたが、その後の検討と最終確認の過程で若干設計内容を変更しま
 した。 まず簡単な28mmタイプですが、ボディーキャップにあける穴径を11φと若干小さめです。

 この穴は写角外の不要な光線をカットするフードの役目をしますが、計算上のケラレが起きない直径(約に対
 し以前は12φとかなりのマージンを見込んでいましたが、それを減らしたものです。
 正確に加工できれば10φでも大丈夫だと思いますが、前作でケラレを作ってしまったこともありこの値にすることに
 しました。

20mmタイプではボディーキャップにかなり大き目の穴をあけるわけですが、この真円度を出すのはかなり難しいので、内部の厚み部分を全部切り落とすことにしました。 こうすることによりケガキ線を引いておかなくてもキャップ裏を見ればどこまで削ればよいかが判るので工作が楽だろうという次第です。 またボディーキャップ裏に貼り付ける3枚の板の穴径も2mm強のマージンを見込んで加工サイズを決定しています。 ボディーキャップ裏側の突出部分の直径は30mm強までボディー内部の機構に当たることはありませんが、ここも安全を考えて直径28mmとしています。 左上の図はそれら修正後の断面図です。 これらによりボディーキャップを加工しましたがそれらの様子は以下をご覧ください。

28mmタイプ。 ボディーキャップ表面にマスキングテープを貼り傷付きを防止しての穴をあけました。

こちらは裏面ですが、このあと金工丸棒ヤスリで削って穴を広げ最後はNTドレッサーRS-310Pで仕上ます。 

20mmタイプの穴あけはより面倒ですが、内周位置にの穴をあけてそれらを細いヤスリで削ってつなぎ抜き取ります。

これが抜き取り終わった状態ですがこのあと丸ヤスリで削って慣らした上でNTドレッサーRL-330Pで仕上ました。 

削り終わった2種類のボディーキャップ。 正直言って右側の20mmタイプの真円度はあまりよくありませんが、最後にぼろ隠しの細工を施そうと考えています。 左側の28mmタイプはほぼ完璧でノギスで測った範囲では中心に対し穴の位置は0.2mm以内のずれ、穴径は11φ±0.1mmに収まっています。

20mmタイプは3枚の3mm厚アガチスでリング状のスペーサーを作りますので、型紙を板に貼りました。

フォスナービットで少し小さな穴をあけて丸ヤスリで所定の大きさまで削りました。

その後ジグソーで少し大きめに切断し今度はM-20GPで外形を削りました。

水に濡らして型紙を剥がし3枚を木工ボンドで貼り合せます。

成形が終わったスペーサーをボディーキャップ裏側に嵌め込んだ所です。

こちらは裏側ですが電灯に透かして見るとスペーサー最外周とボディーキャップの間に僅かな隙間があります。

恐る恐るBessa Tのボディーに装着してみました。 一応問題なさそうです。

一番やばそうな距離計連動の機構との間は1mm強程度離れており大丈夫です。

スペーサーを塗装してやらねばなりませんが、水に濡らした上に木工ボンドが未だ完全に乾燥していないので、一旦ここで中止。 2種類のボディーキャップを嵌めたところはこんな具合ですが、28mmタイプはノッペラボーでなんとも面白くありません。  20mmタイプは最終的には超薄型パンケーキレンズのように見えると思います。



より小さな直径のピンホールを作る

より小さなピンホールをあける方法については、別項で解説していますので、こちらをクリックしてご覧下さい。



28mmタイプの完成と試写

出来上がった28mmタイプピンホール板、ボディーキャップの切削面、0.5mmスペーサーを無光沢黒で塗装し、スペーサーとピンホール板を重ねてボディーキャップ裏に瞬間接着剤で固定しました。  これで完成ですが、F値は、28 ÷ 0.185 =150となります。 早速試写してみました。

ちょっとばっちかったボディーキャップの穴あけ部分を無光沢の黒で塗りました。 その奥にスペーサーとピンホール板が見えますが、ピンホールは小さすぎて見えません。

ボディーキャップの裏側です。 ゼリー状の接着剤を使ったのでちょっと汚らしいですが、実用上は問題ありません。 こちらもピンホールは見えません。

ノッペラボー!というイメージは変わりませんが、ちょっとひきしまたかな?という感じです。 どんな写真が撮れるか楽しみです。 私は28mmのファインダーをもっていないので、50mmファインダーで画面の中心だけは合わせる事にします。

試写その1 強烈に暑い日で参詣客も殆どない近くの神社。

試写その2 雑木林の中は少し温度も低くてほっとする。

取り敢えずの感想は、苦労してピンホールを作った効果(画像の鮮明さ)が結構改善されたのかな?といったとことです。 6 X 9判に較べれば面積で1/5以下の35mm判としては上出来ではないかと思います。

というか6 X 9判や6 X 6判に使っているピンホールは、穴径は正確なものの肉厚をもっと薄く出来るはずで、周辺の描写を改善できる可能性があると想像しています。

上記の写真以外にピンホール写真ライブラリーにも作例を追加してあります。

20mm判は光線漏れ対策のボディーキャップ加工が未だ残っていますので、まだ完成しておりません。



2006/04/07

焦点距離20mm判の製作

20mm判のピンホールレンズはボディーキャップの加工を途中までして中断していましたが、その大きな理由は肉厚が薄いピンホール板の製作でより好適な材料を探すのに長時間掛かっています。

ピンホール板の肉厚による光量損失を減少させるには焦点距離にもよりますが、肉厚をピンホール径の1/10-1/20以下になれば良いと思われるので、ピンホール径0.158mmを目指すとなると0.01mm程度の厚みのものが必要になります。

このくらいの厚みになると板というよりも箔の領域になり今まで使ってた銅でそのような厚みのものは入手可能ですが、ぺらぺらになるだけでなく物理的に大変弱く破れたりしやすくなります。  0.01mm銅箔で穴あけを色々試してみましたが穴あけは楽なものの、バリを削り取る際その後もう一度針を刺して真円調整をするときに、ちょっとでも放射方向の力が加わると穴を傷つけたり破れてしまいます。

真鍮箔でも試してみましたが似たような結果でした。 そこでより強靭さのあるステンレス箔、チタン箔、ベリリウウム箔などを候補に入れ物色しましたが、大量に購入するならいざしらず、ほんのちょっとだけ必要!なんていう要望に答えてくれるところがなかなかなく苦労しましたが、やっとステンレスの0.02mm箔が入手できました。

0.01mm厚のものがあれば尚良かったのですが贅沢は言っていられませんのでこれで20mm焦点距離用を試作することにしました。 ステンレス板でも0.02mm厚ともなるともうぺらぺらになりますが、強靭さは大変ありちょっとしたことであけた穴が傷つくようなことはなさそうです。  但し強靭さがあるということは硬いことを意味するわけで、簡単に穴をあけられません。 実は安定した穴あけが出来るように加工した絹針は硬度不足で先が簡単に折れてしまいます。  よって穴あけの方法でまたつまずいてしまい更に時間が経過してしまいました。

とは言えこのままほったらかしにしておくのもシャクなので、特製の針を数本用意し折れたら交換するということで20mm判の完成に漕ぎつけた次第です。 穴あけは手あけで一体何ミリの穴があいたかは事前には判りませんので、複数作って後で選別という原始的な方法を取っています。 そのうちに何とかうまい方法を見つけたいと思います。

以下はそれらの様子です。 また完成後に再度ノギスで焦点距離を測定したところ20mmより若干短い19mmという測定結果が出ました。 マウントのケラレを考慮するとほぼ限界の短焦点となります。

ボディーキャップの加工が完了しました。 3段の円盤をボディーキャップに嵌め込んだ部分には隙間がありますが、それを手加工で作ったアルミの化粧リングで埋めています。

裏側はこんな様子で無論内部反射や迷光を抑えるため艶消し黒を塗装しています。 真中の穴にピンホール板を貼ります。

ピンホール板用にやっと手に入れた0.02mm厚ステンレス板(箔?)。 ご覧のようにぺらぺらですがさすがステンレス! 大変強靭です。

そのステンレス箔をぺらぺらのままでは作業しにくいので、15mm角程に切断して0.5mmのプラ板に貼り付けました。

穴あけのジグはステンレス板が堅いので精度良くあけることができませんでしたので、特製の針をピンバイスに固定しピンホール板を持って手あけでやりました。

針の突出量を替えて3枚穴をあけ定規に張りつけました。 この後スキャナーにこれを載せて1200DPIでスキャンし画像編集ソフトで穴の大きさを測ります。

大、中、小と3種類あけたつもりでしたが、結果はこの通り。 測定法はモニターで等倍に拡大し左のスケールの1mmの間隔をノギスで測りその値を、右のピンホールの像の直径で割るという簡単な方法です。 真中のピンホールは20mm用にドンピシャサイズでこれを使用しました。 上は35mm用に、下は15mm用に最適な穴径になっています。 

尚ピンホールサイズは計算結果を小数点以下3位まで表示していますが、ノギスをモニター画面にあてて3回測定しその平均値を元に計算していますので、測定誤差によりこの値の±5%程度の狂いは生じると思われますが実用上は全く支障ないはずです。

焦点距離の最終測定では工作の誤差でしょうか19mmとなりました。 これはライカMマウントで作れるほぼ限界の短焦点です。 使用するファインダーは若干画角が狭いですが、フォクトレンダーの21mm用を使います。  ウルトラパンケーキとでも言いましょうか?期待していたよりも遥かに恰好良いものに仕上がりましたので、28mmタイプののっぺらぼーを何とかせにゃならないと思います。


試  写

出来上がった19mmピンホールレンズを早速試してみるべく、砧公園へ桜見物に出かけました。
結果は上々であるというのが第一印象で、35mm判も決して捨てたもんじゃないなあ!と思います。 特に35mm判はISO1600のような高感度フィルムを使えるのがメリットで、その場合晴天の日中では露出は1/4秒前後となりますが、本格的なシャッターが使えるので、露出のコントロールは容易です。 ここではガラスレンズとの比較の撮影がありましたので富士のネガカラーISO400を使っていますが、画面が小さい分感材の自由度という大きなメリットを生かすと本領が発揮できるでしょう。 露出は断り書きがない限り1秒で、ピンホール写真としては短めですが、F 120という明るさ??によるとこが大きいです。

以下に数点の作例をお見せしますが、ライブラリーには他の作例を載せておきましたので併せてご覧下さい。

順光で撮影した。 19mmという超広角のお陰で右に写っている人は撮られていることに気づいていない。

これは逆光での撮影。 あまりフレアーっぽくない写り方になっている。

左の人物までは約60cmの距離。 逆光だが結構暗部もつぶれずに写り、パンフォーカス効果で遠景もよく写っているが、超広角特有の歪が左の人物に見られる。

公園の一角に咲いていたボケの花で、思いつきで漠然と撮りしかも風で揺れていてまともに撮れていない。 露出は2秒で超接写のためノーファインダー撮影。

順光条件で周辺光量低下の具合をガラスレンズと比較した。 左はフォクトレンダー 21mm F4F8に絞り1/2000秒で撮影。 かなり絞っているが対照型のレンズ設計のためか周辺光量低下は認められる。 右は19mmピンホールレンズで画角が若干大きいのが判る。 周辺光量低下は左より若干多いが画角が広いこととピンホール板の厚み以外には光量改善のテクニックがないわけで、大変善戦しておりピンホール板の厚み0.02mmの効果が出ていると思う。


最後に一言

レンズ交換が出来るカメラの中でM型ライカマウントのカメラは、フランジバック(マウント面からフィルムまでの距離)35mm判の中では最も短いです。  更に1眼レフではフィルム面の前に存在するクイックリターンミラーが邪魔になり短焦点ピンホールレンズを作りにくくしており、今回完成した焦点距離19mmはM型ライカマウントでなくては実現できないでしょう。 M型ライカマウントのボディーは中古でも格安で入手することは難しいですが、ボディーを改造することなくピンホール写真を楽しむにはベストな選択になると思います。

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