パンフォーカス 技術的考察INDEXに戻る Home Pageへ

光学レンズを使用する普通のカメラではピントの合う範囲が存在しこれを被写界深度と呼んでいる。 その概念とは、

 ・ピントを合わせた被写体の前後にはピントが合ったとみなされる範囲があり、これを被写界深度と呼ぶ。
 ・絞りを絞ると被写界深度は大きく(深く)なる。
 ・遠距離の被写体にピントを合わせるほうが、被写界深度は拡大する。
 ・焦点距離の短いレンズの方が被写界深度が拡大する。


といったものである。

 ちょっと余談になるが自動焦点が当たり前となってしまった現在で
 は、レンズに付いている被写界深度確認の目盛りの意味をご存知
 ない方のほうが多くなってしまった。 またこの目盛りが付いていな
 いレンズが増えているのも事実で、なんとも隔世の感がする。

 さて被写界深度が何故発生するのかを左の図で説明したい。
 レンズがある距離にあり点を結像した前後は点ではなくボケた丸い
 像となって写る。

 しかしこの円の直径が感光乳剤に使われている銀粒子と同程度で
 あるとしたら、もはやボケとしては認識されずピントが合っていると
 判断される。(これを最小錯乱円と言い、銀粒子の大きさから
 0.03mm前後を採用することが多いようだ。)



 本来のピントが合った所と最小錯乱円が出来る位置関係の考察が
 左の図である。

 レンズと撮影しようとする点の距離をAとし、その時のレンズから結
 像面までの距離をB、レンズの焦点距離をf、レンズに入る光束の
 直径をD、最小錯乱円を0.03mmとすると、レンズの結像に関する
 公式と絞り値の定義式を用いて、Cの値は、
 F x A x 0.03)÷(A - F)という式が導き出される。

 式を見て判ることは、レンズの焦点距離には無関係であり、絞り値
 が大きいほど、そして撮影しようとする物体までの距離が長いほど
 Cの値は大きくなり、ピントの合う範囲が大きくなることだ。

 実際にどのようになるか具体的に数値を入れてみると、あるレンズ
 を絞りを5.6に設定し、5m先にピントを合わせたとすると、Cの計算
 結果は0.17mmとなる。 このレンズの焦点距離が50mmであるとすると、Bの値は50.51mmなのでピントが合って見える像の位置は、レンズから50.34 - 50.68mmとなり、Aの値に換算するとそれぞれ約7.4m - 3.7mの範囲がピントが合って見える。 もしも絞りを17に絞ると(こんな値は絞りリングにはないが)無限遠から2.5m迄ピントの合う範囲は拡大する。

もしレンズの焦点距離が28mmであり同じ5mの所にピントを合わせたとすると、Bの値は28.16mmで、ピントが合って見える範囲は絞りが5.6の場合レンズから27.99-28.33mmとなり、無限遠から2.8mとより広い範囲でピントが合うように算出される。

このように近距離から遠距離までピントの合った状態をパンフォーカスと呼んでおり、被写界深度がかなり大きい状態を指している。

さてピンホールカメラではこの辺りがどうであるかというと、ピンホールの絞りの値は通常のレンズに比べかなり大きい値となる所から、上の原理を引用してピントが合う範囲が広くパンフォーカスだと言われているが、正確には少々異なる。

 左の図はピンホール写真の場合の結像状況を表したものである
 が、撮影する像は決して点像になることはなく、結像部分の円の
 直径は、ピンホールと感光材料の距離が長いほど(焦点距離と考
 えてよい。)
、ピンホールと被写体の距離が短いほど大きくなる。

 光の回折効果を無視すると最もシャープに写る被写体は無限遠で
 あり、この時ピンホールと同じ径の円像になる。
 仮に50mmの焦点距離で50mmの距離にある被写体を撮影したと
 すると(超接写だ)、結像の円は2倍に拡大しよりぼけて見える。
 実際にはピンホールカメラでそのような超接写をすることは少ないと
 思うが、被写体までの距離が短くなるとボケの量は拡大する傾向
 にある条件付のパンフォーカスだということを理解した方が良い。


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