4 x 5判高機能カメラ 自作カメラINDEXに戻る Home Pageへ

2006/02/17

構想

写真業界には銀塩写真の急激な衰退という激震が走っています。 京セラ・コンタックス、コニカミノルタがカメラ生産を全面的に停止し、最大手のニコンも事実上銀塩カメラから撤退、欧州の老舗ライかも存続危ういような話も伝わってきています。
感材メーカーではアグファ、コニカミノルタが撤退。 イルフォードも大幅な事業縮小とあり、今のところネガティブな話はしていないものの、最大手のコダック、富士だって事業規模縮小は十分考えられます。

2年近く前に4 x 5判のカメラの製作構想は一度立てたものの、こんな環境ですのでもはやぐずぐずしていられません。 特に大判の感材はやばいと思いますので、4 x 5判のカメラの製作を急ぐことに決めました。 悠長に数台製作して色々なバージョンというのも良いのですが、そんな暇はもうなさそうなので、4 x 5判で考えられる多数の機能をてんこ盛りにしてやろうといういささか無茶かもしれない構想を練り上げました。

その機能の第1番目は可変焦点距離です。 ズームピンホールと言った方が良いかもしれませんが、F値の変化や使い勝手からしてそのようなイメージとは違いますので可変焦点距離と呼ぶことにし、可変範囲は42mm-122mmとしました。 
これは35mm判でいうと約12mm-35mmに相当します。 ピンホール写真は広角の方が面白い写真を撮れるように思いますので、広角領域は全てカバーしてしまおう!という魂胆です。

第2番目はピンホール径を選択可能という点です。 先人の研究によれば焦点距離42mm
の最適ピンホール径は0.2mm前後、焦点距離122mmの最適ピンホール径は0.4mmと言われて
います。  そこで0.2mm0.3mm0.4mmの3種類から選べるようにしようと思います。

第3番目はあおり機構です。 短焦点カメラで例えば建物を撮影する際建物全体をちょうど画面
に収めようとすると、カメラは水平に構えるのではなく上向きに設定しないとなりません。 
(右は6 x 9判35mm焦点距離のカメラを水平に構えた場合と上向きにセットして撮影した例です。)

しかしこうすると上の方が細くなった写り方をし、撮影意図によっては面白くありません。 
これを補正するにはカメラの感材は垂直になるようセットし、ピンホールだけを上方に移動すれば上
すぼまりを修正でき自然な感じを与えてくれます。 これは俯瞰した撮影の場合も同様で、この機
(上下シフト)を組み込もうと考えています。

第4番目は周辺光量の補正機構です。 ご存知のようにピンホールカメラでは画面の周辺になればなるほど光量が低下してしまいます。 通常は画面中心が最も光量が多く周辺に行くに従い光量低下を起こしますが、上記のシフトをやった場合最も光量の多い位置は画面中心ではなくシフトした方向に移動してしまいます。

そうするとシフト方向と反対側の画面の光量は特に甚だしい光量低下をもたらします。  その光量低下を少しでも抑えるためにピンホールを傾けることを考えています。  但しこの方法がどの程度
の効果をもたらすかは良く判りません。  実際に撮影してみないとなんとも言えませんが、駄目元で望みます。

以上で考えられる機構は全て入っているのではないかと思いますが欲張りすぎたきらいがあり、実のところ各部の構想を練っている際にもアマチュアの手作りで実現できそうだ!という前提条件が
入ると、やたら製作難易度が高くなったり実現不能な機構になったり、あれこれ矛盾が生じてきてなかなかまとまりませんでした。  そんななかでどうやら実現可能そうかな? との構想がまとまり掛けていますのでご紹介します。



もっと大きな1/2縮尺の図面及び、122mm焦点の時や、あおりを使ったときのイメージ図はこちらです。
前述の構想で考えた機構などは以下のように考えています。

4 x 5判用フィルムホルダーは5.5mmの合板で作ったホルダー挿入枠に収めますが、これを蛇腹の後ろ側の固定枠に取り付けます。 そして90度回転させても取り付けられるようにし、縦位置横位置の切り替えを可能にします。  蛇腹の前方は5.5mmの合板3枚貼り合せのピンホールボードブロックに貼り付けられており、このブロックの中の層は上下に25mmずつ移動可能にしておきます。 この中の層には3種類のピンホール(回転して選択)やシャッターを組み込むことになります。

さてこのピンホールボードは上下方向に回転するように、コの字型の前受け枠(水色の部分)に固定され、この前受け枠と蛇腹後方のブロックはレール上をスライド出来るようにしておきます。(これらのスライドで焦点距離が変化します。)

前から見たピンホールボードブロックには縦に長い窓があいていますが、この窓の中をピンホールは25mmずつ上下します。 その窓のすぐ右側には丸いつまみがありますが、これで上下移動をすると共に回転することにより3種類のピンホールを選択します。

ファインダーは所謂スポーツタイプで、撮影画面の縦横を90%に縮めた枠(視野率90%ということです。)を焦点距離だけ離れた位置から覗くタイプですが、上下のシフトや焦点距離の変化に連動しますので、構図を確認するには十分だと思います。  但し縦位置撮影と横位置撮影をカバーするため、妙な形のフレームになってしまうのと、パララックス補正までを組み込むのは無理がありすぎますので近距離撮影には注意が必要です。

使用する材料は5.5mmの合板、5mm厚のアルミ押し出し材、0.8mm0.4mm厚真鍮板、小さなコイルスプリング、ピアノ線、0.02mm厚ステンレス板、真鍮棒、等が主だったところと思われますが、蛇腹を作る材料はまだ決めておりません。

製作に入る前に構造上の矛盾がないかどうかを十分に確認した上で、各ブロックごとに製作を順次進めてゆく予定です。  特にスライド部分や回転機構はスムーズさを確保するのが難しいのと、撓みが出やすいので風でゆらゆらなんていうのでは使い物になりませんので、ブロックごとの動作確認が重要です。 組み込むシャッターもピンホールと移動することになりますから、これも難易度は結構高そうです。  従って製作はかなりの長丁場になりそうですが、夏に入る前には完成させたいと考えています。 次回より各ブロックの製作詳細をご紹介してまいります。



2006/03/03

構想再検討とシャッター設計


久し振りにインフルエンザにやられ40度近い熱が出ている間はさすがに寝ておとなしくしているしかありませんでしたが、熱が下がりだすと寝ているだけでは時間がもったいなく、様々な思考実験や実現の容易性などをあーたら、こーたら考えているうちにピンホールの上下シフトを前板ブロック内部のシャッター機構、ピンホールセレクター全てを動かすのは、どう考えてもスムーズに移動できるとは思えないようになってきました。
また現状の大きさに抑えると上下シフトの最大量も25mmという制限が出てきてしまいます。

そこで代案として前板ブロック全体を上下させるように変更することにしました。 この場合上下のシフトは製作する蛇腹に依存する部分があるとは言え45mm程取れるのではと推測しています。 また前板ブロックをスウィングさせてもピンホールの横位置はずれませんので、あおりにより焦点距離の変化は算出しやすくなります。  但しデメリットとして上下シフトと同時に蛇腹も上下に移動するので、蛇腹が折りたたまれた状態に近いときには上下シフトが出来なくなります。 作りやすいメリットと共にデメリットも出てくるわけですが、シャッター周りは一番製作難易度が高いこともあり、止むを得ないと考えています。

更に前板ブロック部分をレール先端に固定とし機構を単純化することにしました。 これはスライドさせるレールが前板ブロック先端より飛び出すと、短焦点の場合にはレールでケラレが生じることがあり、事前にそれを発見・予測することは困難なので、トラブル防止にもなります。  当然ながら焦点距離が短くなるとレールの後端はかなり飛び出ますが、別に通常の大型カメラのようにピントグラスで確認するわけではないので支障はないはずです。

このレールを取り外してカメラ本体と最も小さくなるようにしたときの大きさは、215 x 170 x 90mm位となることも判ってきました。  そこで専用の収納ボックスを5mm厚程度の板で作ることも想定しています。 それとレールは元々は5mm厚のアルミ板を3段重ねで作ることをイメージしていましたが、紫檀、黒檀などの堅木の端材で作り木工品の味を出してやろうとも考えています。

上の書き直した構想図にはまだおかしな部分が若干残っているものの、基本的な矛盾はなさそうなのでこれに基づき最終設計に進めます。 尚前板ブロック内の縦に長い破線の枠はシャッター板を表し、枠の上端少し左寄りにある赤い線はケーブルレリーズのソケットの位置を、前板の下端中央に飛び出ているのはピンホールのセレクターレバーです。

描いた図面を元での最長焦点距離は160mm近辺で35mm判換算では40mmに相当します。 つまり35mm判の12-40mmと3倍以上の焦点距離の可変が可能で、超広角から標準領域をカバーするようになりました。


シャッターの構想と設計

 一番細かな加工がひつような部分はシャッター、ピンホール板、ピンホールセレクターでしょう。
 そこでこの部分から設計を開始しました。 シャッターの動作構造はステレオピンホールカメラで使ったのと同じコッキング
 レバー無しのバルブのみのもので、ケーブルレリーズを使用してのみシャッターを開閉できるようにします。
 このため間違ってシャッターを開けてしまう心配は少なくなります。

 設計上のシャッター作動は、ケーブルレリーズを約3mm押し込んだ所で一気に開き、最大押し込み量は4mm位になる
 はずです。 また閉じるときは目いっぱい押し込んだ状態から3mm前後抜いたところで一気に閉じると思います。 
 左の図はシャッターを外側からではなく、内側から見たところと理解してください。  またケーブルレリーズの付く方が上
 になります。  シャッターの台板は0.8mm厚の真鍮板を使いますが、この面から内側方向へ約6mm、表面側には
 1mm
の出っ張りになり、総厚みは約8mmです。 
これらの条件で作図的に導き出したシャッター機構によるケラレの限界は画角にして約140°でこれを対角線画角と考えると焦点距離28mmに相当します。 35mm判換算では8mmとなりかなりあおりを使ってもシャッター周りでけられることは先ずないでしょう。

スプリングはギターの弦を使った手作りのコイルスプリング、その他のレバー、シャッターセクター、ピンホールセレクター等は0.4mmから1.5mmの真鍮板、燐青銅板或いはアルミ板から削り出しです。

肝心なピンホールは前回に触れたように0.02mm厚のステンレス板で、薄いにもかかわらず硬さがあるステンレスのお陰でケラレの少ない安定したピンホールが作れるようになっています。 このピンホール板は扇形をした薄い燐青銅板に貼り付けられ、3種類を選べるようになります。

次回にはシャッター機構製作の様子をお伝えします。

----- つづく -----

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